その日は、レジェンド春の選抜営業の日程でした。
私も選抜メンバーに選ばれ、班長として、胸に期する思いがありました。
とにかく時間が惜しいと思い、急いで区域まで行き、一軒一軒軒並み訪問を開始しました。しかし、気合は空回りするばかりで、17時を回ってもいまだ契約にいたるお客様に出会うことが出来ません。
やがて、時計の針は18時を回り、いっそうあせる気持ちに拍車がかかってきました。私は、『このままではいけない』と思い、トイレに行き気分をリフレッシュすることにしました。そして、『必ず契約していただけるお客様に出会う』と強く自分に言い聞かせると、目の前の団地に飛び込みました。
すると、それから少しして、18時30分、19時くらいとたて続けにご契約を頂く事ができ、合計で2件になりました。私は『今日は選抜だし、あと一件はなんとしてもやりたいな』と強く思い、再び訪問を開始しました。
あるお宅にさしかかり、インターフォンを押すとご主人が出られたので、一生懸命お勧めすると、『朝日新聞かぁ』といいながら、インターフォンの向こうで奥様と相談していただいている様子でしたが、奥様が強く反対されている様子でした。私はインターフォン越しにご主人にその旨を告げられましたが、インターフォンの向こう側からお子様の声が聞こえましたので、『ご家族でご利用になれるさまざまなご招待券があります』といいながら食い下がりました。
しかし、やはり新聞は要らないとの事でしたので、私は訪問の御礼を述べ、そのお宅を後にしました。そのまま、何件かのお客様を続けて訪問しましたが、成約にいたるお客様には出会うことが出来ませんでした。販売店に帰る時間が近づいていた事もあり、『今日は2件で終わりかな』と、一階にとめてあった自転車にまたがりペダルに足をかけたちょうどその時です。
女性の方が、子供さんを抱きかかえながら、私のほうに笑顔で近づいてくるではありませんか。そして、その女性が『さっき来た朝日さんですよね』と声をかけてきたのです。私ははっとして、とっさに『はい、そうです、さきほどの5階の方ですか』というと、その方は『笑顔で2階です』と仰います。
そうです、さきほどインターフォン越しにご主人とお話させていただいたお宅の奥様だったのです。私は、再度奥様にご説明をさせていただくと、『では上に来てください』と家の中に通していただき、6ヶ月間のご契約を頂く事ができました。
インターフォン越しの営業で、お顔を拝見する事も出来ずに、一度はあきらめたお宅でしたが、一生懸命説明させていただいた熱意をインターフォン越しに感じ取っていただいていたのかと思うと『やはり、セールスという仕事は去り際も含めどのような場面でも気を抜くことは出来ないなと』あらためて感じるとともに、予期せぬ出来事にただただ感激し、帰路についた、そんな一日でした。